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日本酒をもっと美味しく。東条秋津窯のまるごと山田錦な酒器に酔いしれる
12月に入り、すっかり冬の寒さが感じられるようになりました。
お鍋みたいな温かいものが食べたくなるのと同時にお酒を飲んで温まりたいなぁという気持ちにもなります。日本酒もこれからが新酒のシーズンとなりますが、こだわりの器で楽しんでみませんか?
酒米の王者「山田錦」
日本酒の原料となる酒米品種は全国で120種以上。中でも「山田錦」という酒米は日本酒初心者の方でもなんとなく名前は聞いたことがあるという方も多いかと思います。兵庫県で生まれた酒米「山田錦」にはタンパク質の含有が少ないため雑味が少ないお酒となり、香味が良くきめの細かいまろやかさを持ったいわゆる「コク」のある味わいになります。そのためか新酒鑑評会出品酒の主原料米の約8割は山田錦が使用されており、その中でも兵庫県産の山田錦を主原料としているお酒がほとんど(!)
兵庫県の北播磨エリア(加東市・三木市・加西市・西脇市・小野市・多可町)は、ミネラル豊富で粘土質な土壌に加え、標高50~150メートルの山間地で気温の日較差が大きいことで米作りに適した地域といわれており、特に加東市の東条地区と社地区、三木市の吉川町では特等の山田錦が生産されています。
東条秋津窯(とうじょうあきつがま)
兵庫県神戸市より北へ約40キロメートル。加東市にある320メートルの小高い山、東条秋津富士の近くに地域に根差し、地元の人にも愛されることを目指す窯元があります。
「東条秋津窯」には2人の作家が在籍しており、兄の藤村元太さんは加東市社町特産の桃や、松、竹など自然の恵みを活かした作陶を行っています。今回取り上げるのは弟の藤村拓太さんの作る「山田錦」を活かした作品です。
酒米の王者「山田錦」の生産量が多い北播磨エリアの中でも最高峰のものがとれる特A地区である加東市「秋津」。
「東条の秋津といえば酒米のイメージ。『秋津』という高級なお酒があるよね」
というお客様の言葉をきっかけに地元の農家に山田錦が育つ土と藁灰(わらばい)を分けてもらい「山田錦で作った酒器」を2015年に作家・藤村拓太さんが完成させました。
素地にはざらっとした土感があり、青みが混ざったような白さと滑らかさが美しいのが山田錦の酒器の特徴。
田んぼの土だけでは粗すぎるのと粘り気が少し足りない、乾いた後にひび割れてくるといった理由から山田錦の土の良さを損なわないようにしながら粘り気の多い土と混ぜ、特別な配合での土づくり。山田錦の藁灰と長石というガラス状になる鉱物をどの比率で釉薬にしてどの厚みで釉薬をかけるのか、焼成温度や焼き場所のテストなど約一年半の試行錯誤の末に完成したといいます。
東条秋津窯で山田錦の酒器をつくる
いいものを知るにはまずは体験することから。ということでLocalPrime編集部の器好きかつ日本酒好き3人で東条秋津窯へ。
石泉庵と呼ばれる風情あるゆったりとした佇まいの庵で体験スタートです。
教えてくれるのは山田錦の酒器を作り上げた藤村拓太さんと母の良子さん。
陶芸体験を始める前に、拓太さんより改めて山田錦の酒器が田んぼの土からできていることの説明が。小さなガラス容器に入った山田錦の田んぼの土と山田錦のわら灰をじっくり眺めていると、貴重な山田錦の素材で陶芸ができることへのワクワク感が湧いてきます。
土もみを終え、手渡された少し大きめのおはぎのような土の塊はひんやりとしていました。作り始める前に作品にひびが入らないようにと、土を手と手で移動させ土の空気を抜き、少し丸く整えたら目の前のろくろの中心へ。
「田んぼの土感を残すために、あえて綺麗に生成せず、少し粗めの土づくりにしているんですよ」と拓太さん。
陶芸体験は小学生ぶりくらいですが確かに土の感触が違うような気がします。
両親指を土の頭に刺し、グッと力を入れるとやや硬めの土の塊は抵抗しながらもへこんでいく。底を残しながら周りを広げ、ろくろを90度回し同じように繰り返す。内側と外側をクックッとつまむように土の厚みを均等にし、高さを出して器の形に整えていく。冷たく硬かった土はいつの間にか手の熱で温まり柔らかくなっていて強めに触ってしまうとぐにゃりと形が変わり苦戦。途中、拓太さんと良子さんの手を貸りながらなんとかそれっぽい形に整え、弓で口元を切り整えると小休止。
休憩もかねて、東条秋津窯にある立派な登り窯と藤村さんたちの作品を見学。登り窯は父の時雄さんが友人と一緒に作られたもので、「昔は登り窯に火を入れるときにはたくさんの人が集まりお祭りみたいでしたよ」と拓太さんが懐かしそうに教えてくださいました。
展示室には父時雄さん、兄の元太さん、そして拓太さんの作品がずらり。それぞれの個性を感じられる作品が並ぶ部屋はまさに癒しの空間です。私自身何度も東条秋津窯に足を運んでいますが訪問する度に目に入る作品、場所が違うので何度来ても新鮮な気持ちで作品を鑑賞することができます。
20分ほどして石泉庵に戻り乾燥した作品の底部分を削り、焼いた後に自分のものだとわかるサインを入れると体験終了。最後に釉薬を藁灰釉だけか、黒飴釉と藁灰釉の掛け分けかの二種類から選択します。
釉薬掛け、焼成などは拓太さんが行い、体験から約1ヶ月程度で完成。発送していただくこともできるし、取りに行くこともできます。
気が付けばあっという間に2時間が過ぎていて、こんなに作業に集中したのは久しぶりでした。石泉庵のゆったりとした心落ち着く空間で藤村さん親子が終始和やかに体験を進めてくださったので、癒されながら陶芸体験をすることができました。
作品の完成が楽しみなだけでなく、出来上がったらこのぐいのみでどのお酒を飲もうかと考える楽しみもあり体験中も体験後もワクワクできる陶芸体験でした。
東条秋津窯
住所 兵庫県加東市秋津2001-175
電話番号 0795-47-1639
営業時間 10時~17時
アクセス ひょうご東条ICより車で約20分
冬季は道が凍結している場合がありますので、スタッドレスタイヤの装着を推奨しております。
想いのこもった器で日本酒を飲む
せっかくの山田錦の酒器。新酒が続々と登場する今が一番欲しくなりますが、まるごと山田錦な酒器作りを体験してみたいけど遠くて行けない、自分で作るのに自信がない、今すぐ使いたい!という方もいらっしゃるかもしれません。
Local Primeでは体験だけではなく、ご自宅用にも贈り物にもぴったりの藤村拓太さんの山田錦の酒器をご用意しております。
山田錦酒器専用のギフトボックスで送るので日本酒好きな方へのギフトに喜ばれること間違いなし。もちろんご自宅で形の異なる二種類の器を使って香りの広がり方や口当たりの違いを味わうのも素敵な楽しみ方です。
また、土と釉薬の収縮率の違いにより焼き上げた時に釉薬の表面には「貫入(かんにゅう)」という目に見えないくらいの細かいヒビのようなものができます。使えば使うほど色が入ったり、照りが落ち着いたりと経年変化を楽しむことができます。
「山田錦をまるごと使った酒器という形に残るもので味わうことで日本酒を飲んだ後も山田錦の余韻に浸ることができる。より身近に山田錦を感じてもらいたい」という藤村拓太さんの想いがこもった器を育てながら皆様にも日本酒を美味しく味わっていただきたいです。
バイヤー・編集部コメント
土を触ると子供の頃に戻ったかのように夢中で作品づくりに没頭でき、石泉庵という落ち着いた空間でゆったりと過ごす時間、なにより藤村さん親子とのコミュニケーションが心地よく、体験の1回だけではなく癒されに行きたいと思い何度も何度も東条秋津窯へ足を運んでしまいます。
体験で作ったぐいのみは自宅で日本酒を楽しむ際に活躍しています。山田錦のぐいのみで味わう山田錦のお酒は格別で、いろんなお酒を試したくなります。特別な器で特別な時間を楽しみませんか?
(文/MIKI 写真/CHIKAKO)
バイヤー MIKI
1994年生まれ。兵庫県三田市の湖の見える山のふもと育ち。あまいもの、音楽、おしゃべり、お昼寝が好きです。お酒と写真は日々勉強中です!地域のいいところを皆様にお伝えできるよう頑張ってまいります!!
編集部 CHIKAKO
1991年、兵庫県姫路市生まれ。おいしいもの、音楽、本が好き。お酒は日本酒が好物。趣味は写真撮影で、週末はだいたいカメラで遊んでいます。地域の熱量をお届けできるように頑張ってまいります。