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【加西】美味しい農産物には理由がある!『万願寺感謝祭』参加リポート
加西市万願寺地区で農業経営にいそしむ3人の農家とサポートメンバーからなる任意団体『農のクリエイティブ万願寺』が、2024年2月9日に同地区にある農家レストラン『土一七日屋台』で「万願寺感謝祭」を開催しました。
「ひょうごフィールドパビリオン」認定の祝いと関係者への日頃の感謝、そして万願寺地区のスペシャルな農作物を使った今後の活動に向け、意気込みあふれる感謝祭。当日の様子を紹介します。
本記事は「農のクリエイティブ万願寺」が主催する『万願寺感謝祭』の招待を受け、参加した内容をお伝えします。
ひょうごフィールドパビリオン「本物を届けたい〜人と産物のテロワール〜」
2025年に開催される大阪・関西万博に合わせ、国内外の人に兵庫県のいいところをアピールしていく「ひょうごフィールドパビリオン」。加西市万願寺町で活動する『農のクリエイティブ万願寺』が提案した「本物を届けたい〜人と産物のテロワール〜」がプログラム認定されました。
『農のクリエイティブ万願寺』は、加西市の最も北に位置する万願寺町の環境に惚れ込み移住し、酒米・山田錦の生産をはじめ、さまざまな農作物の栽培に取り組み、昨今では数々の賞を受賞するなど、勢いある農家さんたちです。
その活動は、地元加西の人を巻き込み、万願寺地区で活動するNPO法人「原始人会」をはじめ、地域の人や加西市・加西市観光協会・県立農業技術センター、JA関連団体らの支えで運営されています。もちろん、家族の支えが一番というのは、言うまでもありません。
『農のクリエイティブ万願寺』メンバー紹介
藤本圭一朗(株式会社元源 代表取締役)
就農:2009年 加古川出身
山田錦(慣行栽培、特別栽培、有機栽培)、うるち米、特別栽培里芋「絹里芋」、黒枝豆「ひかり姫」などを生産。所有の冷凍加工場にて「冷凍蒸し黒枝豆」、「冷凍里芋」の生産・販売。
主な受賞歴
JA兵庫みらい「令和5年産山田錦コンクール」で県知事賞を受賞
藤本さん栽培の山田錦で醸した純米大吟醸酒「朔R03BY」(製造者:富久錦株式会社、企画者:株式会社みたて)が、フランスで開催された世界的なワインコンクール「Kura Master2023」で審査員賞と 「クラシック酛部門」プラチナ賞を受賞。
大橋麻世(大橋農園 代表)
就農:2012年 播磨町出身
山田錦、黒枝豆「ひかり姫」、ネギ「兵庫Nー1号」やレタスなど季節野菜などを生産。
県新品種枝豆「ひかり姫」「さとっこ姫」「茶っころ姫」の種子を生産。
主な受賞歴
JA兵庫みらい「令和4年産山田錦コンクール」で加西市長賞を受賞
山田達也(みっちゃまfarm 美味しいモノづくり担当)
就農:2020年 加西市上道山町出身
山田錦、うるち米、丹波黒大豆「丹波黒」、黒枝豆「ひかり姫」、さつまいも、キャベツなどを生産。
主な受賞歴
JA兵庫みらい「令和5年産山田錦コンクール」で3位入賞(初栽培にて受賞)
万願寺感謝祭会場は農家レストラン『土一七日屋台』
2024年2月9日に開かれた万願寺感謝祭は『農のクリエイティブ万願寺』が提案した「本物を届けたい〜人と産物のテロワール〜」が「ひょうごフィールドパビリオン」にプログラム認定されたことを祝うとともに、今後の活動を盛り上げるためのイベント。これまで応援し支えてきた人たちを中心に30名近くの人が集まり、開催されました。
場所は、万願寺地区で30年ほど前から少子化や鳥獣被害などの地域課題に取り組むNPO法人「原始人の会」が運営する農家レストラン『土一七日屋台(どいなかやたい)』。「ぼたん鍋」や「どぶろく(どぶろく特区認定(構造改革特別区域法)を受けて濁酒醸造免許取得)」などを提供するレストランで地域活動の拠点となっています。
アクセスには車が必要ですが(はっぴーバス万願寺線があるが土日祝の運行はなし)、少しわかりづらいので簡単に説明。
北条鉄道「北条町駅」や中国自動車道「加西IC」から、北へ行き県道145号にでたら、西方面へ。写真の三差路が現れるので「原始人会」の看板を目印に右折。
しばらく進むと次の「原始人会」の看板が現れるので右折。
狭い道ですが対向車に気をつけながら進めば『土一七日屋台』の看板が現れます。
この奥に農家レストラン『土一七日屋台』があります。
到着し振りかえるとこの景色です。のどかな田園、中央を横切るように流れる万願寺川。これが万願寺地区の農作物を育てる風景です。気持ちのいいところに建つレストランには、ロードバイク乗りが集まります。
農家レストラン『土一七日屋台』
住所 | 兵庫県加西市上万願寺町120 |
営業時間 | 10時30分~15時 |
定休日 | 水曜日、臨時休業あり |
駐車場 | あり |
HP | 原始人会 https://www.genshijin-kai.com/index.html |
万願寺感謝祭!祝い事の始まりは餅つきから
感謝祭では、「原始人会」の国田代表が挨拶。若い力が地域を盛り上げてくれていることへの感謝があり、ついで、かけつけた加西市長の挨拶も若い力の頑張りに賛辞と市や県からの農業支援の大切さを力説くださり、賑やかに始まりました。
日本中にいえることですが、昔は祝い事といえば餅つきです。ここ万願寺地区でも何かあれば餅をついていたとの事で、今回の感謝祭も「餅つき体験」が用意されました。
餅つき会場はレストラン奥の作業場。ちょうどもち米が蒸し上がり、臼に入れるところから始まります。
使う餅米は、兵庫県育生品種の「はりまもち」。もちろん加西産です。「農のクリエイティブ万願寺」の山田さんらが作ったもの。特徴は、粘りが強く、よく伸びること。病気にも強い品種で、稲も倒れにくいそうです。
まずは「小突き」。蒸し上がった餅米を杵でグイグイと押して潰していきます。この作業がもちの滑らかさを決める重要な工程で時間との勝負。餅つき経験者のベテランたちが対応してくださり、交代しながらで小突きから餅つきへと進んでいきます。
周囲から「ヨイショ〜」の掛け声もあり、初めての人も参加しての賑やかなこと。祝い事があると人が集まり餅をついて笑いあった風習に納得です。
餅がつき終われば、お待ちかね。つきたて餅の試食です。
用意されているのは、あんこ、きな粉、大根おろし。どれも万願寺で採れたもの。まだ温かい餅の甘み。口当たりのよく伸びるもちは、格別。さらにそれぞれの味が加わり、あっという間に無くなりました。
お餅を食べながら「きな粉」の解説。万願寺地区で採れた「丹波黒大豆」を使った「黒大豆きな粉」とのこと。こちらも山田さんが栽培されたもの。丹波黒豆にまつわる言い伝えや、栽培に関して紙芝居形式でわかりやすく紹介してくれました。
新名物グルメ誕生!万願寺特製「芋煮」
芋煮会と聞いて思い浮かぶのが山形。ニュースなどで見かける大鍋を使った「日本一の芋煮会フェスティバル」が始まったのが1989年で、他の地域でも芋煮会が開かれるようになり、愛媛や島根と合わせ「日本3大芋煮」といわれているとか。
それならば、まだこれからでも食い込めると、新たな名物芋煮に加わろうではないかと、万願寺の芋煮会の開催となりました。
万願寺の芋煮を彩る食材は、兵庫県の在来品種を選抜育種した「絹里芋」。『農のクリエイティブ万願寺』の藤本さんが作られています。きめ細やかな舌触りとねっとりとした食感が特徴で、県内や京阪神地区だけではなく東京・静岡・神奈川でも販売されています。
芋煮に欠かせない食材にネギがあります。万願寺の芋煮に使うネギは『農のクリエイティブ万願寺』の大橋さんが栽培する「兵庫Nー1号」。兵庫県北部農業技術センターで生まれた新品種の白ねぎです。茎が太く、葉も食べられ、作りやすくて収穫時期も早いとか。加えて味が良いというスペシャルなネギです。
葉の部分まで丸ごと食べられる証拠に、炙り焼きも登場。肉を巻いているのは腹巻き程度。焼き加減の頃合いを見計らって、塩と醤油をかけただけ。これを丸ごとかぶりつく、ワイルドさ。
実際に食べてみると、シャキッとした歯応えと中のしっとりとしたヌメリを一緒に感じられ、驚く甘みがクセになります。1本食べきるのなど、あっという間です。
この「兵庫Nー1号」も鍋に投入し、グツグツと。
肉は、兵庫県といえばということで、神戸ビーフを投入。
さすがに豪華すぎるので次回行われる時にはどうなるか不明ですが、なんともスペシャルな芋煮。最後に、加西の酒蔵・富久錦の酒粕を入れて完成です。
「絹里芋」や「兵庫Nー1号」からでるトロみに酒粕が加わり、うま味が凝縮された深い味わい。普段は主役のはずの神戸ビーフが嫉妬するほど。万願寺地区の「絹里芋」と「兵庫Nー1号」の存在が際立った芋煮の誕生です。
今後のイベント開催に向け、ブラッシュアップされていくとのことで、次に味わえる機会がとても楽しみです。これを読んでいる人も、ぜひ期待して待ちましょう。
他にも、豆ご飯と芋ご飯が用意されていました。
米は『農のクリエイティブ万願寺』の山田さんが栽培されている「ぴかまる」。もち米に近い感じ粘りがある米で、山田さんいわく「“ぴかまる”で“ぴかまる”が食べられる」という自信作。豆ご飯に入っている枝豆は黒大豆枝豆の「ひかり姫」。芋ご飯の芋「紅はるか」も甘くてビックリ。どちらも山田さんが栽培されたもの。なぜ、これほど美味しいのか驚くばかりです。
万願寺地区の農作物が美味しいのには訳がある
なぜ、これほどに万願寺の作物が美味しいのか。
それがフィールドパビリオンにも登録された「本物を届けたい〜人と産物のテロワール〜」に結びつきます。
“人”は「農のクリエイティブ万願寺」の3人とサポートメンバーや協力してくれる人々の力。安全でおいしいものを作りたい心と、農業が直面している課題への真摯な取り組みなど、未来に向けた活動にあります。
“産物”は、この場所の「気象」「土壌」「地層」。驚くほどの好条件が隠されていました。
万願寺地区の「気象」は、周辺地域と比べ平均気温・最低気温が低く、農作物の生育に適した好条件がそろっています。土地も良く、地殻変動の影響で上部累積層が古く下部累積層が新しいという独特な「地層」にあり、河川の低地で発達した栄養分豊富な「土壌」が作物にいい影響を与えていることがわかっています。
つまり、農作物が美味しくなる条件とやる気に満ちた人たちが集まり、農作物が育てられているということ。「本物を届けたい〜人と産物のテロワール〜」。他とは違う魅力を感じてもらえたのではないでしょうか。
酒米の郷で酒器づくり
お腹もいっぱいになったところで、陶芸体験。これだけ聞くと「なぜ、陶芸?」と思うかもしれませんが、「本物を届けたい〜人と産物のテロワール〜」に関わる「万願寺スペシャルな陶芸体験」なのです。
加西市のおとなりにある加東市にある『東条秋津窯』では、酒米・山田錦を育てる田の土を混ぜ合わせ、山田錦のわらを焼いた灰を釉薬に混ぜ合わせた「山田錦で作った酒器」を製作しています。その陶芸家・藤村拓太さんによる出張体験教室です。
もちろん、万願寺地区で山田錦を育てている田の土、万願寺地区で育った山田錦のワラの釉薬を使った、ここだけの特別な陶芸教室です。
体験では、捏ねた土が配られ、形を整えるところから始めます。いっぱい注げるように大きな盃を作る人、独特な形を目指す人、手に馴染むように作りたい人などさまざま。2〜30分で、形にしていきます。
形が整えれば乾燥させるのですが、体験教室ではドライヤーを使って急速乾燥。その間に、万願寺で美味しい農作物ができる理由など、「農のクリエイティブ万願寺」メンバーからのパネルを使った説明などで盛り上がりました。
乾燥したら、形をヘラで整え、裏側に自分のサインを入れて、ひとまず完成。
希望の釉薬(「わら灰釉」か「わら灰釉・黒あめ釉」から選べる)を明記して、約2ヶ月後の焼き上がりを待ちます。
山田錦の土とワラで作った酒器には、山田錦で作った日本酒が一番似合うはず。注がれる日本酒にとっても、実家に里帰りをしたようなもの。きっと喜んでいるはずで、おいしさも格別に違いありません。
参加者も出来上がった酒器で、いつ飲もうかとの相談で盛り上がっていました。
買って帰ろう!万願寺地区の農産物
万願寺感謝祭が無事終わり、解散となっても楽しみは続きます。
農産物の即売会です。
この日味わった「兵庫Nー1号」や「丹波黒大豆」はもちろん、採れたての「レタス」や黒枝豆を農家ならではの美味しいタイミングで湯がき急速冷凍した「黒枝豆」、「自家製味噌」、原始人会が作っている「どぶろく」や「甘酒」などが並びます。
あっという間にほぼ完売。筆者も買って帰り「兵庫Nー1号」をフライパンで焼きながら、黒枝豆でビールを楽しみました。
生産者とその土地を愛する人たちに囲まれたイベント。開催中、ずっと笑い声が絶えない、温かくて楽しい時間。この土地の良さを知って欲しいという心からのもてなしは、きっと訪れた多くの人に幸せな気持ちにしてくれるはずです。
「ひょうごフィールドパビリオン」として、どのような形でもてなしをしてくれるのか、とても楽しみなプログラムでした。今後の開催等については、原始人会の公式サイトや当サイト「Localprime」のイベント情報などで発信していく予定ですので、楽しみにお待ちください。
(ライター 塚本)
※本記事は取材時点の情報です。価格は税込み表示です。商品内容や価格が変更となる場合があります。
ライター 塚本 隆司(つかもと たかし)
姫路城を眺めながら生きてきた、脱サラライターです。全国あれこれ旅をして来たけれど、やっぱり地元が1番!“兵庫のよいもの“を探し求めて歩きます。(呑み歩きだろ! とは言わないで笑)読んでくれているみなさまの「行きたい!欲しい!食べたい!」が「行こう!買おう!食べよう!」に心が動いたなら、何よりの幸せです。