記事・読み物
[news_side]
[news_side]
風情たっぷりの蕎麦処
『一眞坊』は、丹波焼も窯元が立ち並ぶ丹波篠山市今田町の窯元ストリートの中心地から、車で3~4分のところにある蕎麦処。広々とした敷地には季節の花々が咲き乱れ、茅葺屋根の一軒家は蕎麦屋としての風情たっぷりです。
店主の小川俊和さんは、蕎麦専門店で5年間修業したのち、1990年に豊中市で店をオープン。その後、蕎麦の栽培から手がけたいと2001年に丹波篠山に移住。研究を続け土地に合う品種にたどり着き、就農していたのですが、あまりにも蕎麦屋が人気すぎて農業ができなくなったと話します。現在の場所に店を構えたのは、2012年のことでした。
今使っているのは、福井・丸岡町より仕入れた蕎麦。粘りがあって打ちやすいのが特徴で、美しい蕎麦が打てるとか。玄蕎麦のまま仕入れて、自家製紛した粉で十割蕎麦を打つのが、小川さんの日々の仕事です。
店内も風情たっぷりです。
囲炉裏は、その昔「鴨鍋」を提供していたころのなごり。天井がないので、茅葺屋根の屋根裏がそのままの形で見ることができる開放感あふれる空間です。広い窓からは美しい木々の緑や季節の花を楽しむことができます。
強い蕎麦への執念で「裁ち切り」にたどり着く
蕎麦は「挽き立て、打ち立て、ゆがき立て」といいますが、蕎麦はすぐ伸びてしまうから早く食べてほしいもの。伸びない強い蕎麦を打ったら、お客さんにゆっくり食べてもらえるのでは? 小川さんは、少しでも耐久力のある強い蕎麦を打ちたいと思いました。試行錯誤を重ね、打った蕎麦の切り方に問題があるというところにたどり着きました。押しつぶすように切る「蕎麦切り包丁」は、一気に引いて切る「刺身包丁」に比べて切れにくく、切ったところの表面積が広い。表面積を狭くすることに注力したら、鋭利な刺身包丁で切ったらいいことに気づいたのです。
刺身包丁で量産するのは、かなり至難の業。偶然、製図板とT定規が合体したようなオリジナルの道具を開発して、職業レベルに量産できるようになったそうです。生地を裁断するように切るところから「裁ち切り」と名付け、「裁ち切りそば」は登録商標となりました。
「蕎麦打ちの師匠がいなかったから、何物にもとらわれずに、ひたすら強い蕎麦を求めることができました」と小川さん。また小川さんの打つ蕎麦は、1本80㎝の長さのものもあります。強さにこだわった結果、長くなったとか。
「鴨南蛮」を主体にだしを取る
一眞坊』の看板メニューは『鴨南蛮』です。小川さんが日本一の品質と自負するこのかけそばは、裁ち切りの威力を感じる強い蕎麦と河内鴨のコラボレーションの逸品です。
「出汁はこのメニューのために取っています」と小川さん。鴨はジビエ料理の一つ。ジビエは血生臭さとの戦いで、フレンチでも敢えて血を使ったソースを作って臭さを消すことがあるように、出汁にも血合い付きの鰹節の一種「亀節」を使っています。少し癖のある「亀節」が鴨の動物臭を和らげてくれるそう。これを基本にした出汁を、メニューによって調整しながら使っているというわけです。
実食で「強い蕎麦」を実感
まずは『もり蕎麦』をいただきました。十割蕎麦らしい風味があり本当に美しい蕎麦です。弾力があるのにのど越しなめらかでいくらでも食べられそうです。蕎麦は全く伸びていません。わざわざ遠方から食べに来るお客さんが多いのにも納得です。『もり蕎麦』は大・中・小のサイズがあり、お腹の調子やサイドメニューとのバランスで注文できるのがうれしいところ。
次に『鴨南蛮』です。大体かけ蕎麦は、もり蕎麦より伸びていることが多いのですが、こちらのは違います。蕎麦の風味ものど越しもそのままで弾力があります。鴨の臭みも全く感じず食べることができました。もちろん出汁との相性も抜群です。
忘れてはならない逸品がこちら『鴨ごはん一姫』です。竹皮に包まれた鴨ごはんはほっかほか。河内鴨とごぼう入りでしっとりとしていて蕎麦の実の食感がまた格別です。こちらおみやげにもできます。
そのほか、『鴨わさ』や『鴨ロースのたたき』などの鴨料理があります。
「蕎麦がおいしい店は蕎麦湯もおいしい」と勝手に思っていますが、こちらの蕎麦湯はまた格別においしい。蕎麦の香りが濃厚で何杯もおかわりしました。
集大成として会員制のお店を持ちたい
玄関に掲げられた「春夏冬中」てどういう意味?「秋ない中→商い中」つまり「営業中」には、このプレートを掲げているとのことですが、小川さんに今後の商いの展望をお聞きしました。
「蕎麦一筋の人生の集大成として会員制の店を持ってみたい」と小川さん。
独自で考案した「裁ち切り」の技法で、信念をもって強い蕎麦を作り続けきた小川さんですが、プロの料理人が訪れても「伸びない蕎麦」について聞かれたことがなかったそう。蕎麦職人になって30年が過ぎた頃、初めて「熱い蕎麦でも伸びてないのはなんで?」と蕎麦の秘密を聞いてくれた人がいたとか。何とその人は「エスコヤマ」の小山進シェフでした。その質問がうれしくて仕方なかったと話します。 そんな蕎麦の話をしながら、ゆっくり食べてもらい、いろいろと語り合えるお店をするのが、小川さんの夢だそう。本当に蕎麦が好きなんですよね。わざわざ行きたい名店『一眞坊』で小川さんの蕎麦を食べるには、開店と同時に入店するのがポイントです。
(ライター 歌見)
※本記事は2023年7月時点の情報です。価格は税込み表示です。商品内容や価格が変更となる場合があります。
一眞坊
住所 | 兵庫県丹波篠山市今田町釜屋29-2 |
電話番号 | 079-506-3956 |
営業時間 | 11:00~15:00(LO14:00)※売り切れ次第終了 |
定休日 | 月・金曜(祝日の場合は営業、翌日休) |
アクセス | 舞鶴若狭自動車道三田西ICより車で10分 中国自動車道ひょうご東条ICより車で16分 JR福知山線相野駅よりタクシーで15分 |
駐車場 | 8台 |
HP | https://www.eonet.ne.jp/~issinbou/ |
ライター 歌見(うたみ)
晴れの国・岡山出身で、20代半ばで兵庫県赤穂市に移住。ライターという天職を見つけ、赤穂市内にとどまらず、兵庫五国くまなく回ることができました。五国それぞれに、独特の食文化があり、うまい酒があり…。食いしん坊の私を心身ともに潤してくれます。兵庫県の“間違いない”「食」や「人」や「イイもの」に関わる記事をお届けできたらと思っています。