兵庫県加東市秋津。日本酒造りに欠かせない酒米「山田錦」が育つ土地に、その田んぼの土を使って酒器を作る窯元があります。
「東条秋津窯」で体験できるのは、自分だけのぐいのみ作り。使うのは、山田錦を育てている田んぼの土。さらに焼き上げる際には、山田錦の稲わらを焼いた灰から作られる釉薬が使われます。
つまり、山田錦が育った土地から、日本酒を味わうための器を作る体験です。今回は実際に東条秋津窯を訪れ、約2時間のぐいのみ作りに挑戦しました。
陶芸そのものはもちろん、そこで知った土のこと、工房を包む自然の音、そして自分で作った酒器を手にする意味まで。山田錦のふるさとで過ごした時間を紹介します。
日本酒を楽しむときに使われる小さな酒器のひとつが「ぐいのみ」です。
今回作るぐいのみが少し特別なのは、器そのものと山田錦の産地がつながっていること。東条秋津窯では、山田錦が育つ田んぼの土を使って器を作り、山田錦の稲わらを焼いた灰から作った釉薬で仕上げます。
酒米を育てた土地から酒器が生まれ、その器で日本酒を味わう。体験を始める前から、普段使っている酒器とは少し違った背景が見えてきます。
東条秋津窯に到着して、まず目に入ってきたのは工房を囲む緑でした。窓の向こうには木々と水辺の景色が広がっています。
工房の中に入り、作品や制作場所を見せてもらいながら、今回使う土について話を聞きます。そこで印象に残ったのが、「山田錦の土」といっても、すべて同じではないということでした。
東条秋津窯で使われているのは、山田錦の特A地区の土。同じ特A地区であっても地域によって土の性質が異なり、含まれる鉄分や鉱物などによって、焼き上がった器の表情にも違いが出るそうです。
「山田錦」という一つの名前の奥に、それぞれ異なる土地がある。話を聞いてから器を見ると、色や質感の違いにも自然と目が向くようになります。
普段、「山田錦」と聞いて思い浮かべるのは、日本酒ではないでしょうか。けれど、この体験で最初に触れるのは米でも日本酒でもありません。その米を育ててきた土です。
手のひらで土を押しながら、少しずつ形を整えていきます。指で触れた場所がそのまま形になり、力を入れれば変わり、触り方によって厚みも変わっていきます。
山田錦という名前は知っていても、その背景にある田んぼの土を意識する機会は、そう多くありません。自分の手で土に触れていると、「山田錦の産地」という言葉が、それまでより少し具体的な景色として見えてきました。
酒米を育ててきた土が器となり、その器で日本酒を楽しむ。東条秋津窯のぐいのみ作りには、そんな土地の循環があります。
説明を聞いたら、いよいよ制作です。土の中心を意識しながら、指を使って少しずつ器の内側を広げていきます。
同じ土を使っていても、手の動かし方によって形は少しずつ変わります。口の広さ、高さ、厚み。少し触れるだけでも表情が変わるため、「もう少しこうしたい」と手を加えているうちに、自分なりの形が見えてきます。
既製品のように均一な形を目指すというより、自分の手で作った跡そのものが器の個性になっていく。そんな陶芸の面白さを感じる時間でした。
体験時間は約2時間。現在の予約ページでは、10時または14時からの開始となっています。
完成したぐいのみを並べてみると、その違いがよく分かります。高さも違えば、口の形も違う。手で形を作るからこそ、一つひとつに少しずつ違った表情が生まれます。
さらに、東条秋津窯では山田錦の稲わらを焼いた灰を釉薬に使用しています。山田錦を育てた土だけでなく、収穫後の稲わらも酒器へ。地域で生まれた資源をもう一度ものづくりへつなげていることも、このぐいのみの背景にあります。
焼き上がるまで完成形が分からないことも陶芸の楽しみのひとつ。自分の手を離れたあと、どんな器になって戻ってくるのかを待つ時間まで含めて、この体験は続いていきます。
完成した作品は約1か月後以降に受け取り。郵送の場合は別途送料が必要で、東条秋津窯で直接受け取ることもできます。
今回の体験でもう一つ印象に残ったのが、工房で過ごした時間そのものでした。
東条秋津窯は、豊かな自然に囲まれています。制作していると聞こえてくるのは、鳥のさえずりや、風に揺れる木々の音。既存取材でも、うぐいすやカエルの鳴き声が聞こえる環境の中で制作したことが記録されています。
目の前にある土に集中しているうちに、普段とは違った時間の流れに入っていきます。陶芸体験というと、完成した作品に目が向きがちです。
でも東条秋津窯では、「何を作るか」だけではなく、「どこで作るか」も体験の一部なのだと感じました。ものづくりを楽しむ時間と、自然の中で静かに過ごす時間。その二つを同時に味わえることも、この場所ならではの魅力です。
文章や写真だけでは伝わりにくい、土に触れる手の動きや工房の空気感。ぐいのみ作りの様子は、動画でも紹介しています。
記事で背景を知ったあとに動画を見ることで、実際の制作風景や参加イメージをより具体的に感じられます。
体験する前は、「山田錦の土でぐいのみを作る陶芸体験」という認識でした。けれど、実際に現地へ行って印象に残ったのは、器の作り方だけではありません。
なぜ、この土地の土を使うのか。同じ山田錦の産地でも、なぜ土によって器の表情が変わるのか。稲わらまで酒器づくりに生かされていること。一つのぐいのみを作る過程から、その背景にある土地や農業へ興味が広がっていきました。
普段、日本酒を飲むときに、米が育った「土」まで想像することはあまりありません。でも、自分で作った器が届き、そこへ日本酒を注いだとき。工房から見えた緑や、土に触れた感触、この日に聞いた話まで一緒に思い出すのではないでしょうか。
作品を持ち帰るだけでなく、その土地で過ごした時間まで日常へ持ち帰れる。そこに、この体験ならではの面白さがありました。
山田錦が育った田んぼの土に触れ、自分の手で酒器を形にする約2時間。日本酒が好きな方はもちろん、ものづくりを楽しみたい方や、旅先でその土地ならではの文化に触れてみたい方にとっても、いつもの観光とは少し違った時間になりそうです。
そして、体験は工房を出たところで終わりません。完成した器が手元に届き、そのぐいのみで日本酒を味わったとき、もう一度秋津の風景へつながります。
酒米の王様「山田錦」づくしの「ぐいのみ」作り体験
東条秋津窯
〒673-1302 兵庫県加東市秋津2001-175
毎日(リクエスト予約。窯元の受入可否確認後に確定)
10:00~/14:00~
約2時間
5名(最少催行1名~)
20歳以上 6,600円/高校生~20歳未満(15~19歳)5,500円
開催日の4日前17:00まで
指導料・土代・釉薬代・焼成費
約1か月後以降に受け取り。郵送の場合は別途送料が必要。直接引き取りも可能。
※この体験情報は、2026年9月17日時点の予約ページ掲載内容をもとにしています。最新の開催状況・料金・空き状況は予約ページでご確認ください。
自分で作った器に、日本酒を注ぐ。そのとき思い出すのは、完成したぐいのみだけではなく、秋津の緑や工房で聞いた話、手のひらに残った土の感触かもしれません。
山田錦を「飲む」だけではなく、その土地から知る。東条秋津窯でのぐいのみ作りは、日本酒との付き合い方を少し広げてくれる体験でした。