「このままでは、淡路橙はなくなってしまうかもしれない。」
そう聞けば、多くの人は「希少な柑橘を守る活動」の話だと思うでしょう。
しかし、私たちが森果樹園・淡路橙研究所で出会ったのは、そんな単純な話ではありませんでした。
そこにあったのは、一つの柑橘を守る活動ではなく、地域に受け継がれてきた文化が未来へ残り続ける「仕組み」をつくろうとする挑戦です。
淡路島で約300年前に発見された原種柑橘「淡路橙(淡路島なるとオレンジ)」。現在、生産者は約10名、その多くが高齢となり、生産量は淡路島全体の柑橘生産量の約3%にまで減少しています。
数字だけを見れば、「希少な柑橘」という言葉で片付けられるかもしれません。
けれど、この現状の背景には、生産現場の課題、加工の難しさ、需要の少なさ、そして「伝える人」が足りないという現実があります。
だから森果樹園は、農園でありながら「淡路橙研究所」と名乗りました。
栽培だけでは未来は変えられない。
研究し、加工し、価値を伝え、共感を広げることで初めて、淡路橙は次の世代へつながっていく。その考え方が、この名前には込められています。
私たちLocalprimeもまた、地域の作り手と出会い続ける中で、一つの問いを持ち続けています。
「本当に地域に必要なのは、商品を売ることなのか。」
その問いに対する一つの答えを、森果樹園・淡路橙研究所は示してくれました。
この記事では、淡路橙という柑橘のおいしさだけではなく、その背景にある人、地域、そして未来へ受け継ぐための挑戦についてお伝えします。
今回の記事を書くにあたり、私たちは森果樹園代表・森知宏さんから多くのお話をお聞かせいただきました。
そこには、淡路橙の特徴や加工方法だけでなく、次世代までを見据えたビジョンが丁寧にまとめられていました。
読み進めるうちに、一つ気づいたことがあります。
森果樹園は、「淡路橙を守りたい」とはあまり語っていません。
代わりに何度も出てくる言葉があります。
「仕組みをつくる。」
この違いは、とても大きいと感じました。
守るという言葉には、今あるものを維持する意味があります。
一方で、仕組みをつくるという言葉には、「未来も続いていく状態を生み出す」という意思があります。
つまり、森果樹園が目指しているのは、一時的な保存活動ではありません。
淡路橙が、10年後、20年後、その先の世代にも自然と受け継がれていく環境を整えることなのです。
そのためには、生産者だけが頑張っても続きません。
加工する人が必要です。
料理人やパティシエが必要です。
販売する人も必要です。
そして、背景を知り、その価値を誰かへ伝える人も必要です。
森果樹園が「研究所」という名前を掲げた理由は、まさにそこにありました。
淡路橙は、約300年前の江戸時代に淡路島で発見された原種の柑橘です。
現在では「淡路島なるとオレンジ」という名称でも知られています。
原種とは、長い年月をかけて品種改良が進められてきた現在の柑橘とは異なり、自然に近い特徴を残している品種のことです。
そのため、淡路橙には現代の柑橘には少なくなった個性があります。
厚く硬い皮。
力強い酸味。
ほろ苦さ。
そして、華やかで奥行きのある香り。
一方で、手では皮をむけず、種も多く、生食には決して向いているとは言えません。
効率だけを考えれば、もっと食べやすい柑橘はいくらでもあります。
しかし、それでも淡路橙が300年もの間受け継がれてきた理由は、この品種にしかない香りや個性があったからです。
見せていただいた資料の中では、レモンやゆず、バレンシアオレンジなどとの特徴比較が紹介されています。
様々な柑橘の中で淡路橙は加熱しても香りが飛びにくく、皮の風味が際立つという特徴と記されていました。
その個性は、生で食べること以上に、料理や製菓、加工素材として活かされる可能性を秘めています。
「皮がおいしい。」
森果樹園が最初に伝える特徴は、実ではなく皮でした。
その一言には、「淡路橙は他の柑橘と同じ物差しでは測れない」というメッセージが込められているように感じました。
代表の森さんは、祖父の果樹園を継承する以前、メーカーで商品開発に携わり、その後フリーランスのデザイナーとして活動していました。
その経験は、現在の森果樹園の在り方にも色濃く反映されています。
農園でありながら、研究所。
生産者でありながら、商品開発者。
そして、生産・加工・研究・ブランドづくり・販路開拓までを一つの流れで考える存在です。
もし淡路橙を育てるだけなら、「果樹園」で十分だったでしょう。
しかし、それでは未来は変わりません。
生産者が減り、需要が減れば、どれほど価値のある品種でも姿を消してしまいます。
だから森果樹園は、生産だけではなく、加工し、研究し、新しい使い方を考え、価値を伝えることまで自ら担っています。
それは、農業の仕事を広げたのではありません。
淡路橙が未来へ残るために、本当に必要な役割を一つずつ増やしていった結果なのだと思います。
そして、この考え方こそが、私たちLocalprimeが強く共感した理由でもあります。
地域には、「残したい」と言われるものが数多くあります。
伝統工芸、祭り、郷土料理、農産物。
けれど、「残したい」という想いだけで未来へ受け継がれるものは、決して多くありません。
淡路橙も同じでした。
現在、淡路橙の生産は淡路島のみ。
生産者は約10名。
その多くが高齢となり、生産量は約66トン。これは全国の柑橘生産量から見ても、ごくわずかな量です。
数字だけを見れば、「希少な柑橘」です。
しかし森果樹園が見ているのは、その数字の先にある現実でした。
生産者が減る。
収穫できる人が減る。
加工する人がいない。
買う人が増えない。
価値が伝わらない。
その結果、栽培する理由も少しずつ失われていく。
つまり、淡路橙が姿を消してしまう理由は、「育てられない」からではありません。
続けられる仕組みがないことなのです。
だから森果樹園は、「守る」という言葉ではなく、「仕組みをつくる」という考え方を選びました。
森果樹園・淡路橙研究所のお話を聞いた際、いただいた資料を読むと、興味深い図があります。
そこには、生産から販売までが一本の線でつながっていました。
生産。
一次加工。
研究開発。
ブランド構築。
販路開拓。
販売。
そして、そのすべてを支える存在として、淡路橙研究所があります。
一般的に考えれば、「農家の仕事が増えて大変そう」と感じるかもしれません。
しかし、私たちは少し違う印象を受けました。
森果樹園は仕事を増やしたのではありません。
これまで誰も担ってこなかった”空白”を、一つずつ埋めてきたのです。
例えば、生産者が育てた果実を買い取ること。
加工に必要な下処理を担うこと。
新しい加工方法を研究すること。
料理人やパティシエへ素材として提案すること。
ブランドとして発信し、販路を広げること。
どれも、一つだけでは未来は変わりません。
けれど、それらが一本の線でつながったとき、初めて「淡路橙を育て続けられる理由」が生まれます。
資料の中で「インフラ的存在」という表現が使われている理由も、ここにあるのだと感じました。
森果樹園のビジョンには、「需要を開拓する」という言葉があります。
けれど、それは単に販売量を増やすという意味ではありません。
例えば淡路橙は、生食よりも加工素材として高い可能性を持っています。
加熱しても香りが飛びにくく、皮の風味が豊かであることから、オレンジピールや製菓素材、料理の香りづけなど、多様な活用方法が考えられています。
つまり、「需要をつくる」とは、新しい使い方を生み出すことでもあります。
食べ方が増えれば、必要とする人が増える。
必要とする人が増えれば、生産者が育て続ける理由になる。
そして、新しく栽培を始める人も現れるかもしれない。
需要とは、単なる売上ではありません。
未来の生産を支える土台なのです
資料の中で、私たちが最も印象を受けた言葉があります。
「価値を伝える」。
そして、「共感を広げる」。
この二つは、一見すると広報やブランディングの話に聞こえます。
しかし、森果樹園では、それもまた生産活動の一部として考えられています。
どれだけ良いものを育てても、その背景が伝わらなければ、価格だけで比較されてしまいます。
どれだけ香り豊かな柑橘でも、「少し酸っぱい」「皮が厚い」という印象だけで終わってしまえば、その価値は十分に伝わりません。
だからこそ、「なぜこの柑橘が存在するのか」「なぜ今も育て続けているのか」という背景を伝えることが必要になります。
その背景を知った人は、単なる消費者ではなくなります。
誰かに話したくなる人。
応援したくなる人。
また食べたいと思う人。
その一人ひとりが、新しい需要を生み出し、淡路橙を未来へつなぐ仲間になっていきます。
私たちは、この考え方にとても共感しました。
私たちは、兵庫県各地の事業者を取材しています。
その中で感じるのは、「良いものを作る」ことと、「良いものが残る」ことは、まったく別の話だということです。
どれほど魅力がある商品でも、伝わらなければ選ばれません。
選ばれなければ、次の生産にはつながりません。
森果樹園・淡路橙研究所が目指しているのは、まさにその循環を生み出すことでした。
生産者を支え、加工し、新しい活用方法を研究し、価値を伝え、共感を広げる。
その循環が続くことで、初めて淡路橙は未来へ受け継がれていきます。
これは、私たちLocalprimeが目指していることとも重なります。
記事を書くことが目的ではありません。
商品を販売することだけが目的でもありません。
兵庫県の作り手と、その土地にしかない価値を、未来へつないでいく循環を生み出すこと。
だから私たちは、森果樹園の商品だけではなく、その思想まで届けたいと考えました。
私たちも、森果樹園とともに淡路橙の収穫体験に参加しました。
「収穫体験」と聞くと、多くの人は果物狩りを想像するのではないでしょうか。
枝先に実った果実を剪定ばさみで切り取り、その場で味わう。
そんな穏やかな時間を思い浮かべていました。
しかし、現地で手渡されたのは、高枝切りばさみでした。
見上げる先には、数メートルもの高さまで伸びた淡路橙の木。
原種ならではの力強い生命力は、木の大きさにも表れています。
一本の実を収穫するだけでも簡単ではありません。
高枝切りばさみを伸ばし、狙いを定め、慎重に切り離す。
想像以上に腕へ負担がかかり、何個も収穫する頃には、収穫というより作業をしている感覚に変わっていました。
その瞬間、資料で読んでいた「生産者の高齢化」や「収穫の大変さ」という言葉が、初めて自分の身体を通して理解できたのです。
淡路橙の収穫体験は、果実を持ち帰るための体験ではありません。
生産現場の現実を知る体験でした。
森果樹園では、この収穫体験をイベントとして開催しているわけではありません。
そこには、生産現場を支えるという役割があります。
収穫期は限られています。
一方で、生産者は減少し、高齢化も進んでいます。
収穫を手伝う人がいることは、生産現場にとって確かな力になります。
しかし、この体験にはもう一つの意味があると、私たちは感じました。
それは、「語り部」を増やすことです。
収穫の大変さを知った人。
木の高さを見上げた人。
一本収穫する重みを知った人。
そうした人は、淡路橙を見たときに、きっと誰かへ話したくなります。
「実はね、この柑橘には、こんな背景があるんだ。」
その一言が、新しい需要を生みます。
新しい共感を生みます。
そして、また次の人へ伝わっていきます。
森果樹園が掲げる「価値を伝える」「共感を広げる」とは、広告を増やすことではありません。
実際に知り、体験した人が、自分の言葉で伝えてくれる。
その積み重ねこそが、淡路橙を未来へつないでいく仕組みなのだと感じました。
収穫体験を終えたあと、私たちは改めて森果樹園の商品を手に取りました。
以前なら、「香りの良い柑橘」「珍しい商品」という印象だったかもしれません。
しかし、今では見え方がまったく違います。
例えば、リキッドマーマレード。
これは単なるマーマレードではありません。
淡路橙の果皮・薄皮・果汁をそれぞれ最適な方法で下処理し、果実本来の構成比に戻してグラニュー糖だけで煮詰めた商品です。
素材を余すことなく活かすクラフトスピリットと、限りある淡路橙を大切に使い切る姿勢が、この一品に込められています。
現在ではクラフトソーダのシロップとして提供する飲食店も増え、その一杯が淡路橙の新たな需要を生み、未来へつなぐ仕組みの一部になっていると感じ取れるはずです。
そして、100%ジュース(淡路橙)。
原種ならではの華やかな香りや酸味を、もっともストレートに感じられる一本です。
「飲みやすいか」だけではなく、「この個性が300年受け継がれてきた理由は何だろう」と考えながら味わうと、一杯のジュースが地域の歴史を知る入り口になります。
一方で、100%ジュース(温州みかん)は、淡路橙だけを特別視するための商品ではありません。
祖父から受け継いだ果樹園の営みを、今も変わらず丁寧に続けている森果樹園の日常を伝える一本です。
この三つの商品に共通しているのは、「売るための商品」ではなく、「淡路橙が未来へ残る仕組みの一部」であるということでした。
MONZENでは、「兵庫県産だから」という理由だけで商品を並べることはありません。
そこに地域の歴史があること。
作り手の思想があること。
未来へ受け継ごうとする挑戦があること。
そうした背景まで含めて、お客様へ届けたいと考えています。
森果樹園の商品も、その考え方に深く共感したからこそ取り扱っています。
もしMONZENで淡路橙の商品を見かけたら、ぜひ商品の先にある風景を思い浮かべてみてください。
高枝切りばさみで収穫する人の姿。
皮を何度も下処理する加工場。
そして、「残したい」ではなく、「残り続ける仕組み」をつくろうとする人たちの姿を。
その背景を知った一口は、きっとこれまでとは違う味わいになるはずです。
この記事を書き終えて、改めて感じたことがあります。
私たちはこれまで、多くの地域事業者を取材してきました。
そこで出会ったのは、「良い商品」を作る人たちではありません。
自分たちの地域にしかない価値を、未来へ受け継ごうと挑戦している人たちです。
森果樹園・淡路橙研究所も、その一つでした。
淡路橙は、甘さだけを比べれば、もっと食べやすい柑橘があるかもしれません。
効率だけを考えれば、もっと育てやすい品種もあります。
それでも、この柑橘を未来へ残そうとする理由があります。
そこには、300年という時間の中で育まれてきた地域の個性があり、品種改良では生まれない香りがあり、人の営みがあります。
Localprimeは、これからも兵庫県の「商品」を紹介するだけのメディアにはなりません。
商品の向こう側にある人を伝え、地域を伝え、その背景を知ることで、暮らしが少し豊かになるような出会いを届けたいと思っています。
森果樹園・淡路橙研究所との出会いは、その編集方針を、私たち自身にも改めて教えてくれました。
この記事を読んで淡路橙に興味を持たれた方は、ぜひMONZENで森果樹園の商品を手に取ってみてください。
香りや味わいだけでなく、その背景にある物語まで知ったうえで味わう時間は、きっとこれまでとは違う体験になります。
「知る」「体験する」「味わう」。
そのすべてがつながることで、淡路橙という文化を未来へ受け継ぐ輪は、少しずつ広がっていくと私たちは信じています。
※2026年7月時点の情報です。
