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神戸の夏ランチはカレーに限る!山の手本場インドカレー&スパイスにハマる(前編)特集
CMじゃないけれど、夏はカレーを無性に食べたくなる季節です。とはいえ、カレーと言っても多種多様。神戸でカレーとなると、私は2つのパターンを思い浮かべる。「山の手」と「海の手」で、それぞれひとつずつ。まずは山の手にある本格インドカレーを訪ねました。
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インドカレーの前にお勉強
神戸に外国人が多いのは、神戸港の開港(1868年)とともに外国から多くの商人がやって来て移り住んだことに始まっていますが、なかでもインド人の数は神戸市内を中心に兵庫県内で現在約1,500人と、日本一だそう。それゆえ、ネパール系ではなくて正真正銘のインド料理店が数多くあるのですが、最強のお店が『クスム本場家庭料理』です。最強の理由は、後ほどに。
インドカレーがより味わい深くなる知識を得たくて、まずは『北野工房のまち』へ。インドカレーとくれば、締めはチャイ。この機会にチャイをしっかり学んでみたいと思ったのです。
シティーループで坂もへっちゃら
神戸の山の手といえば、坂道がつきものですが『北野工房のまち』はトアロード沿い。六甲山の緑を仰ぎ見る二車線の広いトアロードは、宝塚歌劇場の大階段のような迫力があります。この季節に10分以上歩いて登るのは、考えるだけで汗が吹き出そうですが、大丈夫!
三宮(地下鉄三宮駅前)あるいは元町(元町商店街〈南京町前〉)から周遊バスのシティーループに乗り込めば、数分で『北野工房のまち』前へ。涼しい車内で車窓から真夏のキラキラした街並みを眺めるのは、快適です。
神戸シティー・ループ Info
1回乗車 おとな260円 小学生以下130円
※ルートや時刻表はHPでご確認ください。
HP はこちら
昔も今も、よく学びよく遊ぶ場所『北野工房のまち』
昭和6年(1931)に創立し、平成8年(1996)に閉校となった旧神戸市立北野小学校。その校舎を活かした『北野工房のまち』は、神戸の体験型観光スポットとして平成10年(1998)に誕生しました。つい観光客向け、と思いがちですが神戸の「いいとこどり」をギュッと集めているので、神戸っ子もちょくちょくチェックすべきです。今回の「マサラチャイ・スパイス調合体験」も、なかなか他では見かけない企画。
昭和初期のモダンな館内を少し見学してから、フレッシュジュースの店『Ju-c-100%』へ。店長の谷村大介さんが本日お世話になる講師です。
未知なるスパイスの世界へようこそ『Ju-C100%』
この日、一緒に講座を受けたのは4名。別棟の教室に入ると、机の上にはずらり8種のスパイス。乳鉢と乳棒も各自に用意されていて、かつての小学校というロケーションからか、理科の実験を思い出します。
「マサラとは、スパイスを混ぜたという意味です」という解説に始まり「香りの弱いものからそれぞれの匂いを確認して、好きか嫌いか確かめながら」という指示に従い、順に手元に取って、匂いを嗅いで擦り潰していきます。
コリアンダーは「噛んでみて」と。すると独特の香りがふわり。パクチーの種だと知っていましたが「偏頭痛を和らげる」とは初耳。他にも、ブラックペッパーはピリッとした成分が幸せホルモンを分泌させるとか、クローブはゴキブリ除けになるとか。谷村さんのスパイスの紹介は植物の説明から歴史、秘めたるパワーまで興味深いものばかりで、参加者はメモをとるのに大忙し。
もともとイタリアンのシェフだった谷村さん、スパイスで味に無限の幅が出るインド料理に興味がわいて、スパイスソムリエの資格を取得。スパイスの魅力をもっと広めたいという想いからはじめたのがこのワークショップということで、伝えたいことが山盛りなのです。
チャイの淹れ方を完璧マスター
5種類擦り潰したところで「他の人のと、香りを比べてみて」と谷村さん。同じスパイスを同じ配合で潰したから同じはずなのに……。自分のはパンチのある香り。隣で丁寧に擦り潰していた男性のはとてもマイルド。かなり違いがあるのに、驚きます。
「スパイスの配合は、十人十色なのが面白みでもあります」と楽しそうに、目の前でマサラチャイの淹れ方のデモンストレーションをはじめる谷村さん。皆、その一挙一動に釘付けです。とはいえ、難しい所作はひとつもなし。
「大事なのは、スパイスは牛乳ではなく、水に入れて沸かすこと。茶葉の次に牛乳を加えて沸いたら少し鍋を遠ざけて冷まして、また沸かしてを数回繰り返して火加減は不要」
ズボラな私が嬉しくなる、簡単さです。できあがった2種類のチャイは、どちらも香りをまとった甘い紅茶が口の中で一気にワッと広がります。「今まで飲んだなかで一番美味しい」と感激する人もいましたが、同感。ひとつはジンジャーが利いていて冬に飲みたい。もうひとつは爽やかで夏に飲みたい感じ。スパイスの調合で大きく味わいが違うということも体感しました。
スパイス愛をしっかり伝授
最後は、今飲んだチャイの配合を参考に、自分の好みで調合していきます。風味のベースにはカルダモンやドライジンジャー。甘い香りが欲しければシナモン、スターアニス。調合のこつを教わりながら真剣に量を計り、袋に詰め……。完成した4種のスパイスに4杯分のアッサムCTC茶葉と乳鉢&乳棒をお土産にいただき、参加者は皆、満足げ。その表情を嬉しそうに確認し「みなさん、手軽にチャイライフを楽しんで」と谷村さんの熱いスパイス談義は締めくくられました。
スパイスの香りが呼び水になって、カレーを早く食べたい気分です。『クスム本場家庭料理』まで徒歩10分ほど。谷村さんが作ったクラフトコーラを『Ju-c-100%』で購入し、スパイスと水分補給をしながら向かいました。
ちょうど飲み終える頃、目的地のレンガのビルに到着。クラフトコーラはコーラと違い、スパイスの香りで爽快感が得られ、後味も甘ったるくなくすっきり。夏にもってこいですね。近々、クラフトコーラのスパイス調合体験も開催されると聞いたので、そちらも気になるところです。
北野工房のまち
住所 兵庫県神戸市中央区中山手通3-17-1
電話番号 078-221-6868
営業時間 10:00〜18:00
定休日 不定休 年末年始
入館料 無料
HPはこちら
マサラチャイスパイス調合体験
料金 2,750円
時間 約90分
中学生以上 2名以上で随時開催
まさに伝説、『クスム本場家庭料理』
約15年前、取材で訪ねた同じ北野のスパイスショップ『インディアン プロビジョン
ストア』は衝撃でした。古いマンションの一角。エレベーターを降りて、一室の扉を開けると、薄暗い中に大柄なインド人男性がでんと座っていて、周囲はスパイスがぎっしり詰まった棚だらけ。ほとんど日本語は通じず、片言英語で会話。怪しげな「アジト」のような雰囲気を楽しみながら、取材をしました。
その時、奥の部屋で食事をしている風景が見えましたが、そこがレストランとは思いもせず。改めて行きたいと思っていると閉店に……。もはや「伝説」になってしまったのかと思っていたら、移転して営業をしていると知り、今回、やって来たのです。
扉の向こうはリトルインディア
2階に上がるとカラフルな造花に囲まれた『クスム本場家庭料理』の扉。開けると、赤いサリーの女性がよっこらしょと椅子から立ち上がりました。開店したて?と思いきや、奥には食事しているご夫婦の姿。以前は、「座ると勝手に料理が出てきた」と聞いていたけれど、お水とメニューがちゃんと出てきました。
メニューに書かれているのはランチAとB、パラタサブジー、プーリサブジー、食べ放題。そしてカレーライスならぬカレーラシス。お店らしくなった雰囲気に少し拍子抜けしていたので、こういう間違いが嬉しくなります。プーリとはなんだろう?と、赤いサリーの女性にまずは日本語、そして英語で聞いてみますが、両手をあげて「わからない」のジェスチャー。そう、これを求めていました。まるで異国にいるような、「伝わらない」まどろっこしさが楽しいのです。
いろんな味を食べたいので、盛りだくさんのAランチを注文。まずサラダが出てきて、少し待つとシルバーのプレートが運ばれてきました。カレーは3種類。インゲンやカリフラワー、カッテージチーズの入ったカレーとクミンの利いた豆のカレー、そしてじゃがいもとお肉のような塊の入ったカレー。どれも味にパンチがあるので、チャパティ2枚とパラパラのインディカ米がすすみ、完食となりました。
固めの衣に詰まったサモサは、中はホクッと肉じゃがのような親しみやすい味わいで甘いソース、辛いソースをかけることで、メリハリが楽しめました。食事を終えて、出てきたチャイは優しい甘さ。ワークショップで飲んだスパイシーな2杯に比べると物足りなさを感じますが、スパイシーな食後にはこれくらいがちょうどいいのかも。
お店の歴史は、家族の歴史
それにしても、カレーの中の肉のようなものは何だろう?
再度彼女に尋ねてみたものの、教えてくれた単語は聞いたこともなく……。申し訳なさげに肩をすくめられてしまいます。
隣のテーブルの女性2人組は、携帯の翻訳機能で美味しかったと伝えていました。なるほど、そんな手があったかと思っていると、流暢な日本語を話すインド人男性がやってきて「質問は何でしたか?」と。
彼はプラフラさんといい、クスムさんの甥にあたる。赤いサリーの女性は母親で、クスムさんはこの日はお休みだけど、いつもはクスムさんとお母さんのふたりで料理を作っているのだそう。そしてスパイスショップで15年前に会ったテワリさん(クスムさんの夫)は亡くなられていて、今はこのプラフラさんと父親が切り盛りしているのだとか。
親族一同、インド北部のウッタル・プラデーション州出身で、大人になってから日本へ。先陣を切ったのがプラフラさんの祖父。1950年頃からスパイス商として行き来していたのだそうです。プラフラさんも20歳で来日しましたが「北野はインド人が多いから、両親のように日本語を話せなくても不自由なく暮らせますが、私は神戸に来てから学びました」と。
そのおかげで、プーリは「チャパティを揚げたもの」、お肉のようなものは「大豆ミート」と判明。異国情緒を体感するのは楽しいけれど、知らなかったことを得るのが旅の醍醐味。彼はツアーガイドのような頼もしい存在です。
「マタオイデ」と、チャイを飲んでくつろぐプラフラさんの両親に見送られて、プチ・インド旅は終了。地下のスパイスショップへ立ち寄りました。
15年前とはがらりと変わって、スパイス以外にカラフルなインドのお菓子やレトルト食品なども多彩に揃った店内。棚を見ていると、さきほど味わった自家製ピクルスや大豆ミート、オリジナルマサラチャイやカレーパウダーなどを発見。今後のチャイライフに、とアッサムCTC茶とブラックペッパー、フェンネルシードを買い、充実した気分でハンター坂を下りました。
クスム本場家庭料理
住所 兵庫県神戸市中央区山本通2-12-21
電話番号 078-221-0229
営業時間 11:00〜14:30 17:00〜20:30
定休日 月曜休
メッセージ
スパイス調合から始まって、スパイスを飲んで、食べて、買い込んで。谷村さんが「スパイス中毒にご用心」とおっしゃっていたけれど、すっかりかかってしまったよう。でも、こんなスパイスまみれの1日も、夏なら元気になれるし、本当におすすめですよ。