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姫路で2番目にスゴイ施設『日本玩具博物館』
ドライブをより安全で楽しいものにするために生まれたミシュランガイド。『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン改訂第4版』(2016年)で、「わざわざ旅行する価値がある」三つ星(★★★)に選ばれたのが、姫路では「世界文化遺産・国宝姫路城」ただひとつ。
そして「寄り道する価値がある」二つ星(★★)に選出されたのも、ただひとつ。これから紹介する「日本玩具博物館」です。
ちなみに「興味深い」一つ星(★)に選出されたのが、「姫路城西御屋敷跡庭園 好古園」、「書写山円教寺」、「姫路市立美術館」の誰もが知る3カ所。「日本玩具博物館」が二つ星に選ばれたことが、いかにスゴイことなのかわかっていただけるかと思います。
何がここまで評価されているのかというと、その収蔵品の数と着目点にあります。
私設の博物館でありながら、収蔵点数は国内資料5万点以上、国外資料は160の国と地域から3万点以上、合わせて約9万点もの収蔵数を誇り、常時5千点余りを6棟の展示施設で公開しています。
なぜ、これほどまでに収集できたか。そこには館長である井上重義氏(1939(昭和14)年1月生)の「文化財として評価されず、消えゆくばかりの郷土玩具の保存と公開」という使命感と「子どもや女性に関わる文化財が評価されていない」という危機感が原動力といえるでしょう。
館長自ら収集した資料に加え、館長の思いに共感した人たちからの寄贈によって現在の規模に拡大したというわけです。
ドラマ化して欲しいくらいの50年
日本玩具博物館は、井上館長が35歳(1974年)の時、新築した自宅の一室を改装して開いた「井上郷土玩具館」から始まります。姫路に県立歴史博物館や市立美術館ができる9年前のことです。
24歳の時、鉄道会社に勤務の傍ら、偶然手にした『日本の郷土玩具』(1962年、斎藤良輔著、未来社刊)に感銘を受け、先人たちが子どもたちのために創り上げてきた郷土玩具(この国土に芽生えて花開いた、我々民族のかわいらしい文化財)を求めて収集を始め、それを「井上郷土玩具館」として公開しました。
一介のサラリーマンが無料で土日だけ開館する博物館は、NHKで全国放送されるなど話題を呼び、多くの人が訪れました。ただ、15メートルばかりの展示ケースでは「もっと見たい」の要望に応えられず、自ら設計を行い、地元の宮大工らの協力を得て増築(現1号館)。以来、増築を繰り返し、1989年には6号館まで増え、展示ケースの延長は約180メートルにもなりました。
これまで、さまざまなことがあったようです。
勤め人だった頃は、収集活動は非番の日。現地に赴きコレクターや研究者との交流、廃絶したと思われていた玩具については製作者を探しだし、世間に知らせる活動を地道に行う日々。
一例では、江戸時代に女性たちが着物を縫った後の残り布を利用して作った人形や動物、花などをかたどった袋物や小箱、明治時代にあっては玩具や子どものお守りなどにも使われた「裁縫おさいくもの」を「ちりめん細工」(井上館長が命名)として復元するなど、尽力してきました。
1979年には、国際児童年に合わせ「世界のおもちゃ展」を開催したところ大ヒット。世界の玩具の収集にも力を入れるきっかけとなったそうです。
45歳となった1984年に、会社を退職し館の運営を本格化し『日本玩具博物館』に改称。入館者は年々増え、1991年には7万9千人に。当時の香寺町の人口が2万人ほどでしたから、人口の4倍近い人が訪れた計算になります。この頃は、コレクターも多く、郷土玩具の人気が高かったことが伺えます。
収集活動の傍ら、所蔵品をまとめた書籍『兵庫の郷土玩具』(井上重義著/1981年・神戸新聞総合出版センター刊)や『日本と世界おもしろ玩具図鑑』(井上重義・尾崎織女著/2017年・神戸新聞総合出版センター刊)、『世界の民芸玩具』(尾崎織女著/2020年・大福書林刊)、中国の文化大革命前の貴重な玩具などをまとめた『中国民衆玩具』(尾崎織女著/2022年・大福書林刊)、ちりめん細工の手ほどき書などの出版を学芸員の尾﨑織女さんらとともに手掛けるなど、なんともパワフルな人生を歩まれています。
1998年には、個人立の博物館では全国でも数館しかない「博物館相当施設」に認定され、2016年にミシュランガイドで2つ星を獲得するなど、数々の団体で評価され今日に至っています。
私設の博物館として、これほど長く運営され愛され続けていることに「奇跡の博物館」と称されることも。私設とはいえ、井上館長は「当館が所蔵する資料は私有財産とは思っておらず、本来なら社会が守るべき文化遺産である」という思いで、後世に伝えたいと語られています。
日本玩具博物館の見どころ
日本玩具博物館の面白いところは、見どころは訪れる人それぞれにあるというところです。
博物館といえば「これを見て欲しい」という直接的な思いが伝わってくるところが多いのですが、日本玩具博物館は「事典の索引」が並んでいるような場所。見たい時代、見たい地域、見たい種類、それぞれの切り口で楽しむことができます。
年配の人には懐かしさ、若い人には古き物の中からの発見、海外の文化を知りたい人、日本文化を知りたい外国人、歴史を勉強したい人やデザインを勉強している人にはインスピレーションを与えてくれるなど、その利用方法は無限に広がっています。
実際、姫路城ではなく、ここ「日本玩具博物館」に来たくて姫路に訪れる人もあり、海外からの観光客が毎日訪れています。
展示施設は、1号館と6号館が企画展示。2号館は「駄菓子屋の玩具と近代玩具」でブリキやセルロイドの玩具から、今も愛されているキャラクター玩具などが展示されています。
3号館は「伝統手芸の世界」。日本女性が古くから伝承してきたちりめん細工や手毬、びん細工などの貴重な資料などが並びます。
4号館は2階建てで、1階は「日本の郷土玩具」、2階は「世界の玩具」が地域ごとに展示されています。例えば「日本の郷土玩具」では、だるまやこけし、コマ、張子、土人形、凧など、それぞれの地域の違いなどを見ることができます。
「世界の玩具」では、そのデザイン性の違いなど興味深いものがあります。色や形に違いがあっても日本の玩具との共通点が見出せるものがあり、見方ひとつで面白さが広がります。
5号館は「らんぷの家」で主に休憩所として利用できます。弁当持参で訪れてもいいそうです(イベントなどで利用することもあるので事前に相談のこと)。休憩所は6号館の隣にも用意されています。
「何度も行ったことあるよ」という人にも朗報があります。2023年の10月に館内の照明がLED化されました。これにより、展示物がより色鮮やかに見られるようになっています。
年4回の楽しみは特別展
日本玩具博物館の楽しみに特別展や企画展があります。 特に6号館で年4回開催される特別展を心待ちにしているファンが多くいます。
年4回のうち3回は定番で「冬のクリスマス」「春のひな祭り」「5月の端午の節句」を毎年、趣向を凝らした展示で楽しませてくれ、夏から秋にかけては地域を絞った特別展が開催されています。
これら常設展を含め展示を担当しているのが学芸員の尾﨑織女(おさきあやめ)さん。ワークショップや伝承おもちゃ教室、出版活動なども担当され、玩具への深い見識と楽しい解説が魅力です。
2023年11月11日(土)〜2024年1月28日(日)までは「冬の特別展 世界のクリスマス 喜びの造形」と題した特別展を開催しています。展示点数は約1,000点。世界のクリスマスはどんなものかを知る機会です。日本のクリスマスしか知らない人に、ぜひおすすめしたい内容になっています。
今回、特に注目すべき展示は『「生命の樹」の燭台』(メキシコ)。天上界と地下界、神々の世界と人間界をつなぐ柱のような樹が存在するという古代メキシコの伝承とキリスト教の世界観が習合した繁栄と豊穣を象徴する造形物です。
本展では、クリスマスとは何なのか。単なるイエス・キリストの降誕祭ではなく、世界各地でその土地にあった収穫祭などと融合した祭りとして催されていることが、ツリーやオーナメントから知ることができます。
これからの日本玩具博物館
数多くの収蔵品を持つ日本玩具博物館。収集の時代から活用の時代に移っている時といえます。
館内には、コマや木の玩具などを実際に触れて楽しめる場所がいくつかあり、懐かしむ大人と熱心に遊ぶ子どもの姿があり、異なる世代が共通の時間を楽しむ姿がよく見られます。
これらの木のおもちゃも今や貴重となり、館内の郷土玩具の販売コーナーには、すでに廃業したメーカーの商品などが並んでいます。
また、収蔵品の新たな見せ方にも取り組まれています。 例えば二次元バーコードを使い、展示物が動く動画を見ることができます。1つ見出すと次々見たくなる玩具の世界に楽しみが広がります。
現在は全国的に博物館の衰退が顕著な時代。多い時には7万人近い来館者がいた日本玩具博物館も、年々来館者は減少し1万人を下回る現状にあります。公立館のように補助を受けられない個人博物館が運営を続けていくには、多くのファンの支えが必要です。「日本玩具博物館」の魅力に一度ふれてみてください。きっと誰かに伝えたくなります。
日本玩具博物館へのアクセス
日本玩具博物館があるのは古い住宅街の中ですが、南北に国道312号とJR播但線が並行して通っている地域なので、脇道に外れてからの道順さえわかれば比較的アクセスしやすい場所にあります。
車で訪れても観光バスが停車できる駐車場があり、普通車も30台が駐車場できます。
電車の場合は、JR播但線香呂駅を下車、東へ徒歩で約15分。行き方は、ほぼ真っ直ぐに歩くだけ。案内板も随所にあるので迷わず行けるでしょう。
駅からタクシーを利用する場合は、初乗り運賃(700円)で行けます。
最寄りのバス亭は、神姫バス84系統福崎駅前行き「香呂駅前バス停」です。姫路駅北口(7番のりば)からの運賃は540円。ただし、本数が少なく土日祝日で1日3便(帰りは2便)、平日は2便なので、お気をつけください。
(ライター 塚本隆司)
※本記事は2023年11月時点の情報です。価格は税込み表示です。商品内容や価格が変更となる場合があります。
日本玩具博物館
住所 | 兵庫県姫路市香寺町中仁野671-3 |
電話番号 | 079-232-4388 |
開館時間 | 10時~17時 |
休館日 | 水曜日(祝日の場合は開館)、年末年始(12月28日~1月3日) |
アクセス | (電車) JR播但線・香呂駅から徒歩15分(駅からの各所に案内板あり) (車)播但連絡道路「船津」ランプから西へ約5分、 中国自動車道「福崎」ICから南へ約15分 (バス)神姫バス 84系統福崎駅前行き「香呂駅前バス停」から徒歩12分 |
駐車場 | あり(約30台無料) |
公式サイト | https://japan-toy-museum.org |
SNS | facebook https://www.facebook.com/ToyMuseum.official/ Instagram https://www.instagram.com/japan_toy_museum/ X https://twitter.com/toymuseum1974 |
備考 | 友の会会員募集中:年会費(2,000円)、 会員証提示で入館無料・特別展や催しの案内送付 |
ライター 塚本 隆司(つかもと たかし)
姫路城を眺めながら生きてきた、脱サラライターです。全国あれこれ旅をして来たけれど、やっぱり地元が1番!“兵庫のよいもの“を探し求めて歩きます。(呑み歩きだろ! とは言わないで笑)読んでくれているみなさまの「行きたい!欲しい!食べたい!」が「行こう!買おう!食べよう!」に心が動いたなら、何よりの幸せです。