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ほっこりかわいいマグカップの制作現場
地域に愛される神戸の「いかり共同作業所」取材記!!

神戸市兵庫区で 42 年運営、障害福祉サービス事業所の「いかり共同作業所」

いかり共同作業所と、作業する利用者の方々
いかり共同作業所と、作業する利用者の方々

神戸市内を走る連接バス・ポートループの「ハーバーランド」バス停から南西方面へ歩くこと 15 分。
障害福祉サービス事業所のいかり共同作業所(以下、いかり)は、工場地帯ながら閑静な兵庫区西出町にあります。いかりでは、障害のある 10 代~70代の利用者が、仕事やボランティア活動に日々とりくんでいらっしゃいます。書類封入や資源回収のような作業や、紙すき製品やビーズ製品、ポーセラーツで作ったマグカップなど、利用者の方々の自己表現によって生まれた作品をイベント会場などで販売しています。
私がいかりのことを知ったのは、ひょんなことからです。
営業活動の合間に喫茶店で一息ついているときに、お仕事帰りのある職員さんに声をかけていただいたことがきっかけでした。その方はいかりのすぐ近所にある”喫茶思いつき”の常連客でした。その日を境に、いかりのことをいろいろと教えていただき、他の職員さんとも交流させていただくことになったのです。今回は社会の重要な一部でありながら普段なかなか関わる機会が少ない障害福祉の現場を取材してきましたので、私ならではの視点でご紹介していきたいと思います。

思わずニッコリしてしまう デザインのマグカップ制作現場へ

作業風景
職員さんによるレクチャーの後は、いざ作業開始!

いかり共同作業所は、神戸市兵庫区西出町に開所してから 40 年以上が経過しました。”いかり”というネーミングは、「海のまち神戸」が由来の一つです。現作業所は 4 階建てで、それぞれの階で行う作業内容やメンバーを日ごとに分けています。
朝 9 時 45 分頃。利用者の方々が続々と出勤してきます。10 時からは、各階ごとに朝の会が始まります。職員さんがそれぞれ朝のあいさつと注意事項の説明などを順番にお話されます。ある利用者の方が気を利かせてくれて、私にも自己紹介の機会を与えてくださいました。朝の会が終わったら、ラジオ体操の時間。各階で軽快なラジオ体操が流れていました。体操が終わると、作業の開始です。
この日は、Nigao と名付けられた、ポーセラーツを活用したマグカップ制作の作業ということでした。ちなみにポーセラーツとは、白磁器に転写紙を使って自分好みのオリジナル食器を作るハンドクラフトアートのことです。Nigao は、いかりの利用者の方々がペンで描いた似顔絵をデータ化し、「目」「鼻」「口」などそれぞれの顔パーツを数十種類に分けて転写紙にしたのち、それをカップの好きな場所に貼り、ひとつの顔を完成させる、というものです。それぞれの感性で組み合わせたパーツからできるオリジナルの顔は、表情豊かでぬくもりのあるカップに仕上がります。まさに、唯一無二の、いかりでしか作れない作品です。コロナ禍前には、利用者たちが先生となって、地域の子どもたちに対して体験教室を開催したり、街の雑貨屋さんで販売していたりしたようです。

マグカップ
作業前のマグカップ。選んだ顔パーツをこちらに貼り付けていく。
たくさんのパーツ
たくさんのパーツが!選び放題です。
パーツ選び
いい作品づくりには、パーツ選びが肝心です。

今回は利用者が Nigao 制作作業に取り組んでいる様子を見学させていただいていました。
「好きなパーツを選んでいいけど、怒っている顔のマグカップを見て、おいしいコーヒーが飲めるかな?そうやって使う人のことも考えて作ってみましょうね。」
と職員さんのアドバイスがある中、皆さん集中して作品づくりに取り組まれていました。それぞれの感性を用いて黙々と完成を目指します。

作業する様子
和気あいあいと作業する様子

そんななか、なんと私も Nigao を作らせていただけることに!いざ作りはじめてみると、パーツの選び方や配置など、組み合わせを考えながら制作するので、ひとつとして同じデザインはできないことに気づきました。ここにも Nigao ならではの価値を感じます。私の作品はコチラ。あえて口パーツは貼らずに表情を不明確にするという、奇をてらったデザインにしてみました。皆さんにかわいいと褒めていただき嬉しかったです(照)貼り終わったものを焼くとシールが溶けて黒い線だけ残り、完成です!

マグカップ
バイヤーの力作。我ながらかわいくできました。

休憩時間には、70 代男性利用者さんのカラオケタイム。懐かしのロックナンバーを手拍子と声援で盛り上げます。皆さん楽しそうでとても和やかな雰囲気でした。昼食後は、有志が集まって、野球界でいま流行りのきつねダンスの練習もしていたようで、すごくほほえましい光景でした。

カラオケタイムの様子
カラオケタイムの様子

利用者たちが仕事をする理由

皆さんと同じ時間を過ごし少しずつ打ち解けてきたので、もっとお話を聞いてみたいと思い、別の階にいる利用者の方とも話をさせていただきました。
マグネットをつける作業をしていた、私と同世代(20 代後半)の女性である K さんに、お話を聞かせていただきました。

K さん「私は目がほとんど見えません。うっすらと目の前になにかあるな、くらいは視神経のおかげでわかりますが、人の顔もはっきりわかりません。ただ、耳でその人の雰囲気を感じ取ることができるんです。音楽が大好きで、特にユーミンが大好きでコロナ前にはコンサートにも行っていました。曲は『守ってあげたい』が一番好きです。コンサートに行ける日をずっと待っています。」

—— ぼくも、ユーミンの「守ってあげたい」が大好きです。歌を聴く以外には、どんなことをしているときが楽しいですか?

K さん「文字を書く時ですかね。自分の名前の字を書くのが楽しいです。目が見えないので、文字を書くだけでも苦労します。だからこそ書けたときの喜びは大きいです。確かに不自由ですが、目が見えないかわりに耳がよく聞こえるので心地いい音にじっくりと浸れますし、障害があるからこそできることがあったり、健常者にはわからないことがわかったりと、いいこともたくさんあります。」

—— そう前向きに思えることは本当に素晴らしいことだと思います。頑張って働いたお給料はどのように使う予定ですか?

K さん「2 歳になる甥っ子がいて、めっちゃかわいいんですよ。なのでプレゼントを買ってあげたいかな。あと、自分へのご褒美に晩酌用の日本酒を買いたいな。」


利用者の労働によって支払われるお給料は、業務内容や出勤回数によって違うので一概には言えませんが、だいたい 1 万円程度とのことです。このように、障害のある方が社会の役に立ちたいという思いで働き、その働きに応じてお給料がもらえるという仕組みは非常に意義のあることだと思います。利用者たちはみな、社会参加によって得られる感謝の気持ちやお給料を誇りに、日々働いています。他の方にも給料の使い道を聞いてみると、70 代の女性は「広島旅行にいって、お好み焼きを食べたい」、30 代の男性は「お気に入りの雑誌や DVD を買いたい」等それぞれの頑張る理由がわかり、自分も頑張らないとな、と元気をいただきました。
Nigao 制作や、ビーズアクセサリーづくり、紙すき製品づくり、資源回収作業、地域のゴミ捨てのお手伝い等。仕事内容は多岐に渡りますが、誰かのために、自分のために働いているのは共通しているのだと感慨深い気持ちになりました。また、何気なく日々を過ごすのではなく、自分を含め様々な人が誰かのために頑張って働くことによって社会が循環しているということを改めて実感しました。

資源回収の様子
資源回収の様子。地域から集めてきたたくさんの資源を、みんなで運びます。
資源回収の様子
慣れた動きで、午前中にこの量を回収しきります。
バン
地域を一軒一軒めぐり、ダンボールや新聞紙を回収します。

 このような資源回収や、「まちなか倶楽部」という町内施設の受付など、いかりでは地域のための活動を活発に行っています。地域からいかに理解され、協力されるかが障害福祉サービス事業の課題だといわれる中で、いかりの活動は地域住民に感謝され、頼りにされています。毎週木曜日の資源回収では、地域住民を一軒一軒訪問し、新聞紙やペットボトルを回収していますが、おばあちゃんが「いつもありがとうね」とお菓子や飲み物を手渡されるところを取材中に数回見かけました。いかりのメンバーが地域のために活動してきた積み重ねが、このようなあたたかい光景を生んでいるのです。

地域の方による感謝のおもてなしは、珍しくないとのこと。

なぜ、いかりに惹かれたのか

 私がいかりに惹かれ取材を決意したのは、職員さんや利用者の方々の姿に心を打たれたからです。
 いかりでは、38 名の利用者と 20 名の職員さんが過ごしています(2022 年 9 月時点)。職員さんは、利用者のことを「仲間」と呼んでいます。支援する側・される側という関係性よりも、あくまでも人と人との対等な交流が日々行われている、という印象を受けました。常に明るく、だれとでも和気あいあいと接する姿。私がいかりに対して一番魅力を感じた点は、どの職員さんもそうだったからです。
 まったくの部外者である私が取材で事務所内をウロウロしたり、作業中の利用者の方に話しかけても、職員の方々はあたたかく受け入れてくださいました。ご自身のお仕事があるにもかかわらず、私の質問に丁寧に答えてくださいました。数回取材をさせていただきましたが、初回訪問時にして、いかりの職員さん全員が持つあたたかい雰囲気を感じました。職員さんひとりひとりが純粋に仕事や利用者に対し真摯に向き合っている姿に感動し、その姿を間近で取材し、拙いながらも私の文章で伝えたい。それが、私がいかりに惹かれた理由です。
 いかり共同作業所は、コロナ禍の前までは地域のイベントに出展したり体験イベントを開催したりと、地元との交流や施設外のお客さまの受入などを積極的に行ってきました。コロナ禍が落ち着けば、Nigao づくり体験のイベントも開催したいとのことですので、その際はぜひ一度いかりの事務所に訪れてみてください。私が再三にわたって書いている雰囲気の意味が、きっと伝わると思います。

職員さんと仲間たちはとっても仲良し。

(文・写真/SHUN )

バイヤー SHUN

1993年、徳島県生まれ。大学卒業を機に兵庫県に移り住んでいます。好きなものは90年代JPOPで、spitzを崇拝しています。最近の悩みは、ウケを狙ってボケたことよりもウケるつもりのない行動で笑いをとってしまうことです。兵庫県民とはまた違った視点から兵庫県の魅力を紹介できればいいなと思っています!

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