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【姫路】父の「日乃屋」と娘の「ヒノヤ」
昔懐かしい和菓子に自家焙煎コーヒーはいかが?
姫路市農人町の静かな住宅街で見つけた和菓子屋さん。店の名を「日乃屋(ひのや)」といいます。そこで出あったのは、立派なカシワの葉をまとったかしわ餅とレトロなパッケージのコーヒー。「和菓子にコーヒー⁉」 意外に思って購入し、自宅でいただいてみるとあら不思議。あんことコーヒーの相性のよいこと。何より印象的だったのは、店主のおじいちゃんの笑顔でした。 好奇心をくすぐられ取材を申し込むと、おじいちゃんこと和菓子職人の山口隆司さんと、山口さんの長女でコーヒーの焙煎を手がける嶋津裕子さんが出迎えてくれました。
83歳の現役和菓子職人
山口さんは83歳にして現役の和菓子職人。お父さんが1930年に創業した「日乃屋」を継ぎ、二代目として暖簾を守っています。幼少期から和菓子が日常にある生活で、自然とこの世界に入ったという山口さん。「ここで生まれて、16の時からこの仕事をしてるんや」と話します。
同店がある通りは、以前は八百屋や魚屋、散髪屋などが軒を連ねる商店街でしたが、今ではほとんどの店が閉店してしまいました。そのなかで、変わらず和菓子をつくり続けている山口さん。朝は早くから店の奥で仕込みをし、昼間はお客さんが来れば店先に立ちます。
長く続けるコツを尋ねると、「特にないなぁ。これが仕事やからねぇ」。67年間この店で働いてきた山口さんにとって、和菓子づくりは生活そのもの。そんな父を間近で見てきた嶋津さんは、「毎日店に出てお客さんとしゃべるのが元気のもとなんじゃないかな」と話します。
店頭には、かしわ餅やどら焼き、栗まんじゅうなど昔ながらの和菓子が並びます。小さい頃から慣れ親しんだ味というお客さんも多いことでしょう。
ファン多し いつでも食べたいかしわ餅
看板商品は『かしわ餅』。もともとは端午の節句のある5月にだけ販売していましたが、「おいしいからいつでも食べたい」という声が多く、通年つくるようになったのだとか。
大きなカシワの葉からはがしてパクッとかぶりつくと、お餅のぷりっとはずむような歯ごたえに「あっ」と驚き、粒あんの素朴な甘さにほっと和みます。あんには北海道産の大納言小豆(しょうず)を使っており、豆の風味がしっかり味わえます。
先代のつくるかしわ餅の生地はやわらかめでしたが、食感がよくなるように山口さんが材料の配合などを改良。「生地とあんこがあってるやろ?」とニカッと笑います。たしかに、コシのある生地と粒あんが好相性で、ファンの多さに納得です。
昔ながらの味をつらぬく
山口さんも好きという『どら焼き』は、幅広い世代に人気です。厚めの生地はほんのり香ばしく、どら焼き用に炊くという粒あんはほっくりした食感。小ぶりながらも食べごたえは十分で、小腹がすく午後のおやつにぴったりです。
もち米と小豆をふっくらと炊き上げた『赤飯』も好評。豆本来のあわい赤色に染まったごはんと、小豆のふくよかな香りが食欲をそそります。ハレの日でなくとも、毎日食べたくなりますね。
季節のお菓子もお忘れなく。春を彩るのは、塩漬けの桜葉もやわらかい『さくら餅』と、ふんわりかわいい『花見団子』。取材日は春休みと花見シーズンが重なる3月下旬。「さくら餅、あるだけちょうだい」「花見団子10本ください」と立ち寄る人が続き、あっという間に完売しました。
桜が散れば、本格的なかしわ餅の季節。夏は本葛を使ったくず餅、秋冬には練り切りも登場します。
保存料などは一切使用していませんが、あえて無添加とうたわずとも、昔から変わらない日乃屋のお菓子は安心して食べられるものばかり。
最近は時代にあわせて、生クリームなど洋風の素材を取り入れた和菓子が増えてきましたが、山口さんは「今の品ぞろえでいく」と昔ながらの味をつらぬきます。
自家焙煎のおいしさを気軽に楽しんで
一方、そんな和菓子に交じってひときわ目を引くのは、嶋津さんの「ヒノヤコーヒー」。
神戸に住む嶋津さん。もともとコーヒーは苦手でしたが、勤め先のカフェで興味をもち、おいしいコーヒーを追い求めるうちに自分で焙煎するように。宝塚市内のコーヒー店で本格的に焙煎の技術を学び、1年前に自身のコーヒーブランドを立ち上げました。「焙煎の奥深さにのめり込んじゃって。まだまだ勉強中なんです」と話す表情はとても楽しそう。
「気軽に飲めて和菓子にあう。そんなコーヒーをつくりたくて、豆の組み合わせや配合を工夫しました」という『ヒノヤブレンド』。グアテマラとタンザニアを使った中煎りのコーヒーで、フルーツを思わせる芳醇な香りとすっきりした後味が特徴です。ティーバッグのようにお湯に浸すだけのディップスタイルなので、とっても便利。
カフェインを控えたい人には、カフェインレスの『グアテマラ デカフェネイティッド』も。物足りなさを感じさせない深みのある味わいです。
自身でデザインしたというパッケージは、どことなく和菓子店の雰囲気にマッチ。「昔っぽいデザインにしたくて。最近は、純喫茶とか昭和時代に流行っていたものが若い人のあいだで人気ですよね」。
子どもの頃はあんこが好きではなかったという嶋津さんですが、今では和菓子に自分で焙煎したコーヒーをあわせるほどに。和菓子を買いに来たお客さんが珍しさから買うことが多く、「気に入って定期的に買ってくれるお客さんもいる」と山口さんもうれしそうです。
互いに寄り添う、父の和菓子と娘のコーヒー
ヒノヤブレンドと日乃屋の和菓子、嶋津さんにおすすめの組み合わせを聞くと、間髪を入れず「黒糖まんじゅうの甘じょっぱさがコーヒーとあうんです」と返ってきました。
日乃屋の『黒糖まんじゅう』は醤油が隠し味。見た目は地味ながらも、こしあんの上品な甘さと醤油のほのかな塩気がくせになります。 コーヒーと一緒にいただいてみると、ほんとうにあう! まんじゅうの甘じょっぱさとコーヒーの苦みが、寄り添うように互いの味を引き立てあいます。「冷めていく時の味の変化も楽しんでもらえたら」と嶋津さん。
お茶をあわせるイメージが強い和菓子ですが、コーヒーとの相性のよさに感服。「コーヒーと和菓子って似てるんです。コーヒーも和菓子に欠かせない小豆も、豆を選り分けるところから始まるので」と嶋津さんは話します。
この日は持ち帰ったお菓子をお皿に並べ、ひとつずつコーヒーとのペアリングを楽しみました。みなさんもぜひ試してみてくださいね。
懐かしくて新しい 日乃屋のこれから
「昔ながらの味」という懐かしさ、「和菓子にコーヒー」という目新しさ。洋風の商品はつくらないと話していた山口さんですが、はからずも娘とのコラボレーションというかたちで日乃屋に新風が吹き込みました。
取材の後半には、パンや洋菓子をつくることが好きという次女の藤田順子さんも駆けつけてくれました。「秋に出る栗の練り切りが好きなんです」と嶋津さんが話せば、「自家製食パンに父のあんこをぜいたくにぬって食べてますよ」と藤田さん。「日乃屋のお菓子も、昭和ブームのように一周回って人気が出るかも⁉」と笑いあう場面もあり、父娘の仲の睦まじさに心があたたまります。
父のあんこと、娘のコーヒーとパン。いつか3人のコラボがかなう日が来るかもしれませんね。
新芽が出るまで古い葉が落ちないカシワにちなみ、子孫繁栄の願いを込めて食べられるかしわ餅。日乃屋のこれからを見守ってくれているような気がします。
(ライター ながら)
※本記事は2023年3月時点の情報です。価格は税込み表示です。商品内容や価格が変更となる場合があります。
御菓子司 日乃屋
住所 | 姫路市農人町43 |
電話番号 | 079-292-8866 |
営業時間 | 9:30~18:30 |
定休日 | 不定休 |
アクセス | 神姫バス「龍野町」バス停 下車 徒歩1分 |
駐車場 | なし |
SNS | 日乃屋Instagram ヒノヤコーヒーInstagram |
ながら いつこ
あんこをこよなく愛するフリーライター。生まれも育ちも兵庫です。魅力ある人や食をメインに取材・ライティングをおこなっています。お気に入りのおやつのようにじっくり味わいたくなる記事をお届けします。