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大貫本店とは
阪神尼崎駅を北側に出て、西に向かうと尼崎中央商店街。商店街に入って150メートルほど先、信号を渡ってすぐに右に行くと、20メートルほどのところに「大貫本店」の黄色い看板があります。
創業は大正元年。先々代・千坂長治さんが、神戸の旧居留地でお店を始められました。大阪では初代の通天閣が完成し、また海外ではタイタニック号の事件が起こった、そんな歴史の教科書に載っているような遠い昔です。今年(2023年)100周年で盛り上がっているディズニーよりも古くから、大貫本店は営業していたのですね。
太平洋戦争が終わった後、尼崎に活気に溢れた新しい商店街ができたということで、現在の場所に移転されたそうです。
100年を超える大貫本店の歴史の中で、連綿と伝えられている大切なものが「醤油素ダレ」(しょうゆもとだれ)です。チャーシューの煮汁をベースに、創業以来日々追い足し継ぎ足し熟成された、大貫本店の味が凝縮された素ダレ。全ての料理に使われているのだそうです。
そして現在、大貫本店の味を守っておられる店主は四代目、千坂創さんです。
創業大正元年。現存最古級の中華そば
日本で最初の中華そば屋さんは、浅草の来々軒と言われています。大貫本店の創業はその2年後。創業者の千坂長治さんは、その中華そばの味に感激した一人だったそうです。
来々軒は残念ながら、現存しません。その頃から続いている他の中華料理店も、おそらく無いでしょう。つまり、大貫本店の中華そばは現在、現存する日本最古の中華そばの可能性が高いということですね。それも、最初の中華そばを実際に食べて感激した方が作られたものですから、おそらく当時の味を今に伝えているんではないでしょうか。
卵をたっぷり練り込んだ自家製のたまご麺。伝承の醤油素ダレと相俟って、素朴な中にも深みのある味わいです。中華そばの歴史が詰まった、いわばスタンダードの味。これはやはり一度食べておかなければならないレジェンドですね。
巨大な鍋とスコップで「地焼き」する絶品やきめし
大貫本店でもう一つ、外せない定番が「やきめし」です。
口の中でほどけるパラッパラのやきめしは、最初に「地焼き」をして、注文を受けてからさらに炒めて仕上げる独自の方法で作られます。
地焼きは、お米の中に醤油素ダレの味をしっかり均一に閉じ込める大切な工程です。直径130センチの巨大な中華鍋で、80人前ほどを一気に焼き上げます。「シャワーお玉」と呼ばれる独自のひしゃくのような器具を使って醤油素ダレを注ぎ、大きなスコップを使って豪快にかき混ぜます。
また、お米そのものに対するこだわりもひとかたではありません。2019年に出会った、滋賀県甲賀市の近江米。100%純正の近江米を契約農家から購入されているのだそうです。
大貫本店に行って、このやきめしを食べないという選択肢はありません。
中華そばとやきめしの組み合わせはバリエーション豊富
中華そばとやきめし。この二つの外せないメニューを無理なく思いっきり楽しむために、サイズのバリエーションがたくさん用意されています。まず、中華そばはハーフ(麺の量80g)、普通(麺の量160g)、大盛(麺の量240g)の三種類、これにやきめしはミニ(300g)、小(400g)、並(500g)、特大(600g)の四種類からそれぞれ選んで組み合わせるのです。
今回筆者は一人で取材でした。さらに他のメニュー(後述)も頼みたかったので、残してしまわないように中華そばもやきめしも一番少ない「ハーフとミニ」の組み合わせをお願いしたのですが、それでもかなりボリュームがありました。ここで「特大と特大」を食べきるのは、かなり胃に自信のある方でないと難しそうです。
阪神タイガース優勝記念セールの予告ポスターも。取材日(8/30)時点では一時マジックが消えるなど不穏なこともあって「このまま消えたら殺生な話ですわ」と千坂さん。しかしこの後阪神は快進撃、9月24日見事にAREしました
おすすめの蒸し鶏と唐揚げ
最近一番人気のメニューが「蒸し鶏と鶏カラのハーフ&ハーフ」ということを聞いて、これは絶対に食べなくてはと注文しました。
厚切りで食べ応えのあるジューシーな蒸し鶏は、熟成された醤油素ダレとマッチしてなんとも言えない美味しさです。そして醤油素ダレに漬け込まれた唐揚げは、これはもう絶対に美味しいやつ。これはもうどちらも優劣が付けられないので、こうやってハーフ&ハーフのメニューを作っていただいたことに感謝しかありません。
そして、中華そばとやきめし。なんという幸せな組み合わせでしょうか。
店内は4人掛けのテーブル席が7卓。開店時刻になるとどんどんお客さんが入って、すぐにほぼ埋まってしまいます。よく知られた老舗ですから、地元の人はもちろん遠方からも訪ねてこられるのでしょう。
また、多くのメニューがネット通販で全国からのお取り寄せにも対応されていて、尼崎市のふるさと納税の返礼品にも選ばれています。
尼崎で出会う中華そばのルーツ。これはぜひ一度食べておくべき味です。
(ライター 小嶋)
※本記事は2023年8月時点の情報です。価格は税込み表示です。商品内容や価格が変更となる場合があります。
大貫本店
住所 | 兵庫県尼崎市神田中通3-29 |
電話番号 | 06-6411-9583 |
営業時間 | 11:30~20:00ラストオーダー20:30まで(昼休憩なし) |
定休日 | 水曜日 (祝日の場合は営業。火曜or木曜に替休) |
アクセス | 阪神尼崎駅から徒歩5分 |
駐車場 | なし |
HP | https://www.daikan-honten.com/ |
ライター 小嶋あきら
猫とベスパが大好きな、ちょっと写真も撮れるライター。前回の万博をおぼろげながらに記憶している、そんな世代です。こわい話は好きだけど実はかなり真剣におばけはこわいです。兵庫県西宮市在住。